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福島地方裁判所 昭和53年(ワ)160号 判決

主文

1  被告らは各自原告泰啓に対し金四七〇万六二九七円及び内金四六六万三三二八円五四銭に対する被告小山は昭和五三年六月一日から、被告梁川は同月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告恵、同智美に対しそれぞれ金四五六万三三二八円五四銭及び内金四二六万三三二八円五四銭に対する被告小山は同月一日から、被告梁川は同月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

但し、各被告らにおいて各原告に対し金三〇〇万円の担保をたてたときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

1  被告らは連帯して、原告らに対しそれぞれ金四七〇万六二九七円、及びこれに対する本訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  予備的に仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  原告ら主張の請求原因

1  (当事者)

原告泰啓は、後記2の本件交通事故で死亡した亡片岡アイ子の夫であり、原告恵は同女の長女、原告智美は同女の二女である。

2  (事故の発生)

亡アイ子は、昭和五二年一二月一二日午後一時一〇分頃、福島県伊達郡保原町字七丁目六番地先交差点を赤信号に従い一旦停止した後、青信号に従い伊達町方面から川俣方面に向け進行したところ、亡アイ子と並んで停止していて右信号に従い同時に発進した被告小山勉運転の大型貨物自動車が亡アイ子の自転車に気付かず左折したためこれと衝突し、その轢殺するところとなつた。

3  (被告らの責任)

本件事故は、被告小山が前記交差点を左折するに当たり、直進車の動行に注意せずに左折しその進路を妨害した過失により発生したものであり、又本件車両は被告梁川の所有で同人の営む土砂運搬販売業の為に使用されていたものであるから、被告小山は民法第七〇九条により、同梁川は自動車損害賠償補償法第三条により何れも原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。

4  (損害)

アイ子は前記受傷による内臓破裂により同日死亡したが、原告らは同女の死亡により左記損害を受けた。

(一) 慰謝料 金一〇〇〇万円

亡アイ子の死亡に対する慰謝料は金一〇〇〇万円が相当である。

(二) 逸失利益 金二四八九万八六一六円

亡片岡アイ子は死亡当時二八歳で主婦業の傍ら保原町のハツピーストアに勤務し、月平均七万円の収入を得ていた。

右の通り亡アイ子は、主婦兼会社勤務により一般の主婦以上の収入を得ていたので、逸失利益としては少なくとも一般の主婦の場合の計算方法に基づく逸失利益は認定されるべきである。

賃金センサス昭和五二年第一巻第一表女子労働者学歴計によれば、女子二八歳の年間収入は金一六六万九七〇〇円(一〇万七八〇〇円×一二月+三七万六一〇〇円)である。

また同人は、六七歳迄三九年間就労可能であり、その間のホフマン係数は二一・三〇二九であるので同人の得べかりし収入は金三五五六万九四五二円(一六六万九七〇〇円×二一・三〇二九)となる。

従つて、同人の生活費を三〇%とすると同人の逸失利益は金二四八九万八六一六円となる。

(三) 葬儀費用 金五〇万円

原告らが亡アイ子の葬儀のため支出した費用のうち金五〇万円は被告らが負担すべきものである。

(四) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告らは、被告らから任意にその支払いを得ないので原告代理人に本件訴訟の提起を委任し、報酬の支払いを約したが、右報酬のうち請求金額の一割に相当する金一〇〇万円は被告らが負担すべきものである。

5  損害の填補 金一五〇〇万円

原告らは、本件損害に対する賠償として、自賠責保険より金一五〇〇万円の支払いを得た。

6  結論

前記の損害総額は金三六三九万八六一六円となるが、亡アイ子の過失割合を二〇%とみると被告らの負担すべき損害は右総額からその二〇%を減額した金二九一一万八八九二円となる。

よつて、原告らは、被告らに対し連帯して、各自法定相続分に従い右金額から既受領金一五〇〇万円を控除した残金一四一一万八八九二円の三分の一に相当する金四七〇万六二九七円とこれに対する本件訴状送達の翌日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因1の事実中身分関係は認める。

2  同2の事実中「亡アイ子は赤信号に従い一旦停止した後」、「亡アイ子の自転車に気付かず左折したため、これと衝突し、その轢殺するところとなつた」との部分を否認する。

3  同3は争う。

4  同4は争う。

5  同5は認める。

三  被告らの抗弁

1  本件事故は亡アイ子の一方的過失により発生したものである。

(一) 本件衝突をした交差点は、被告小山の運転車が一旦停止した前方の道路は大型車の進入禁止になつており、その旨の標識が存する。それは亡アイ子が毎日こゝを通行しているということで充分承知していたものである。もし亡アイ子も一旦停止したならば被告小山の運転車が大型車で直進しないで右折か左折する車であること、および被告小山が左折の方向指示器を操作しているので、被告小山車は該交差点を左折するよう方向を指示されていたことを知り、亡アイ子は青信号になつたとしても左右を注視していなければならなかつたものである。亡アイ子には右の注意義務を怠つて漫然自転車を直進させた過失が存する。

(二) 本事故の発生した交差点附近には、いずれも横断歩道があつて、自転車で横断する者はその横断歩道上を信号器の指示に従つて進行すべきで、亡アイ子はそれに従わなかつた過失が存する。

(三) おもうに、亡アイ子は、信号待ちではなく、ずつと進行してきて、幸い青信号であつたためそのまま直進できるものと、左右の注視を怠つて漫然と直進して被告小山車の後車輪附近に衝突したものである。それは、被告が、左折しようとする路上に大型トレーラー車が停車していたので、その左折するのに、大きくセンター寄りに幅を広くとつて左折し、車首が左折車線に向つたと思われる時に亡アイ子の自転車が接触しているものである。その間被告小山は自車の前後左右をミラー等を通して充分に注視したがその視野に入らなかつた点からも言えると思うのである。

本件の事故は右のとおりの事情で亡アイ子の過失によるものである。

2  仮りに被告小山の過失によると認定されるとしても、亡アイ子にも過失があつたから、こゝにその損害については相殺されるべきである。

四  抗弁に対する原告の答弁

1  否認する。

仮に亡アイ子に過失ありとしても二〇%を超えるものではない。

2(一)  被告小山は司法警察員に対し、「対面する信号機の信号が青色進めの信号で先行車に続いてこの交差点に入り、時速一五キロメートルで左折したのですが、このとき左フエンダーミラーをチラツと見ただけで他の人車の通行は無いであろうと安易に考えて、よく私の車の左側なり左前方を見なかつたのがこの原因なのです」と本件事故は自己の過失により発生したことを自認し、更に「左フエンダーミラーで左側方を注意して見れば自転車乗りを発見できたと思いますので、私が左方の安全確認が足りなかつたため自転車乗を発見できなかつた点が事故の原因で、その点が私の落度でした。左大廻りの状態で左折するわけですから念入りに左方を確かめれば良かつたとくやまれてならないのです。」と述べている。

(二)  被告らは、被告小山車が一旦停止した前方の道路は大型車の進入禁止になつていることを以て被告小山車が左折することを亡アイ子が予知すべきである旨主張するが、一般の主婦に大型車進入禁止の道路標識(普通乗用車等は自由に通行している。)を判読させ、それに従つた通行方法を要求することは被害者に酷であり、これを以て被害者の過失とすることは不当である。

また、被告小山車は、左折の為本件交差点に於て一旦右側にハンドルを切り、車両を道路右側に進出させた後左折を開始している。

このような場合、後続車としては左折車が左折するまでの間に自車が十分通り抜けられる又は通り抜けるまで相手が待つていてくれると考えることは妥当であり、従つて被告小山としては左折する際に改めて左側の安全を十分に確認すべきであつた。

このような場合亡アイ子の過失は二〇%を超えることはない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告らと亡アイ子の身分関係が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、原告ら主張の日時場所において、被告小山運転の大型貨物自動車(以下被告車という。)と亡アイ子の乗車する自転車(以下本件自転車という。)が接触してその結果アイアイ子がその場で死亡したことは被告らが明らかに争わないので、自白したものとみなす。

そして、各成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一ないし七、第七号証の一ないし四、第八号証の一、二、第一一ないし第一六号証、第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一号証の一ないし五〇、第二二ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証、被告小山本人尋問の結果によれば、本件事故現場は交通整理の行われている十字路交差点であること、被告小山は被告車を運転し、伊達町方面から本件交差点に向け進行し、本件交差点手前約二七メートルの地点で一旦停止し、対面信号が青色にかわつたので、発進し、同交差点において左折を開始したが、被告車前部左側を被告車と並進し、本件交差点を直進していた亡アイ子乗車の本件自転車を発見することができずに、そのまま左折を続けたため、被告車前輪部前のステツプを本件自転車に接触させ、倒れた自転車を左前輪で押しつぶし、更に後輪(二重タイヤ)でアイ子を轢殺(内臓破裂で死亡)したことが認められ、甲第二四号証中右認定に反する記載部分は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故は被告小山の過失即ち左折する際には直進車の進行を妨げてはならない注意義務があるのにこれを怠たり漫然と左折をしたため、本件事故が発生したことが明らかであるから、被告小山は民法七〇九条により本件事故から生じた損害を賠償すべき義務がある。

次に、被告梁川本人尋問の結果によれば、被告車は被告梁川の所有であり、被告小山は被告梁川に雇われ、同被告の業務のため被告車を運転中本件事故を惹起したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、被告梁川は自賠法三条により本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

被告らは本件事故が亡アイ子の一方的な過失により生じた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、又、被告らは本件事故の発生は亡アイ子の過失にも帰因している旨主張するが、前記認定のとおり、亡アイ子は、青信号に従つて被告車左前部左側を被告車と並進して本件交差点を直進していたのであるから、亡アイ子には何らの落度もないというべきであり、被告らの右各主張はいずれも採用できない。

二  損害について以下に判断する。

(一)  慰謝料 金一〇〇〇万円

前記認定の事故態様からみて亡アイ子の死亡に対する慰謝料は金一〇〇〇万円が相当である。

(二)  逸失利益

各成立に争いのない甲第一一、第二三号証、当審における原告泰啓本人尋問の結果によれば、本件事故当時、原告泰啓方では、原告泰啓、同恵(長女、三歳)、同智美(二女、一歳)、原告泰啓の父(五八歳)、母(五七歳)と亡アイ子の六人家族であり、亡アイ子は家事に従事するかたわら、保原町内のスーパーマーケツトでパートで働き月六万円を下らない収入を得ていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、亡アイ子の逸失利益の算定は、パートで得た収入は必ずしも継続的なものとはいい難いので、一般主婦の場合の計算方法に基づいてするのが相当である。

ところで、賃金センサス昭和五二年第一巻第一表女子労働者学歴計によれば、女子二八歳の年間収入は金一六六万九七〇〇円であり、二八歳の女子は少くとも六七歳までの三九年間就労が可能であること、そして三九年のホフマン式係数は二一・三〇九二であることは当裁判所に明らかである。

これを基準にして亡アイ子の得べかりし利益の現価を計算すると、金三五五七万九九七一円二四銭となり、これから亡アイ子の生活費五〇パーセントを控除すると、金一七七八万九九八五円六二銭となる。

(三)  以上(一)(二)の合計金二七七八万九九八五円六二銭となり、原告らは三分の一づつ相続したから、各原告の取得した分はそれぞれ金九二六万三三二八円五四銭となる。

(四)  葬儀費用

原告泰啓は亡アイ子の夫として、本件事故により亡アイ子の葬儀費用の支出を余儀なくされたことは明らかであり、それは金四〇万円をもつて相当とする。

(五)  原告らが、自賠責保険から金一五〇〇万円の支払をうけたことは当事者間に争いがないから、これらは原告らの各損害に金五〇〇万円づつ充当されたというべきである。

そうすると、原告泰啓の損害額は金四六六万三三二八円五四銭と、その余の原告らの損害額は各四二六万三三二八円五四銭となる。

(六)  弁護士費用

原告らの請求の認容額、本件事件の審理経緯等を参酌すると、弁護士費用は原告泰啓分が金三二万円、その余の原告らの分が各三〇万円が相当である。

三  以上の次第により、被告らは各自、原告泰啓に対し金四九八万三三二八円五四銭及び内金四六六万三三二八円五四銭(弁護士費用金三二万円を控除したもの。)に対する本件不法行為後である本件訴状送達の翌日(被告小山につき昭和五三年六月一日、被告梁川につき同月一三日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告らに対し各金四五六万三三二八円五四銭及び内金四二六万三三二八円五四銭(前同)に対する本件訴状送達の翌日(前同)から支払ずみまで同じく年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務がある。

よつて、原告らの各請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項、仮執行の免脱宣言につき同条三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤貞二)

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